asagao



六月十七日 はれ

こいびとが来る。
おみやげ。
特大西瓜ほどの、やけに大きな植木鉢をさしだして、あさがお、と短く言う。
両腕で抱えるようにして鉢を受け取り、
こんもりと山のように膨らんだ赤土をしばし眺める。
が、それらしきものはどこにもない。
双葉どころか、芽も出ていない。
まもなく。
まもなく?
こいびとは頷いて、今日が予定日、と厳かに言う。
潮が満ちてきているから、もう、まもなく。

濡れ縁の下、沓脱石の横に鉢を置き、如雨露でじゃあじゃあと水を撒く。
と、ぽっこり丸い腹のような赤土のてっぺんが、豆粒大にぷくりと膨らむ。
でべそ。
思わずそう呟くと、まるでそれが合図であるかのように、
土がぴんっとはじき飛び、すっくと青いものが立ち上がった。
いきなりの双葉である。

う、生まれた。
驚いてのけぞるあたしの横で、こいびとがのんびりと言う。
生まれましたなぁ。

目を細め、ひとり頷くこいびとを横目で見ると、
その向うで、同じように頷いている者がある。
豚の蚊遣りの中、ちんまりと座った獏が、
こくこくと小さな頭を揺らしながら、青いあさがおの芽を見ている。


ふと、獏の生まれが気にかかる。
いったいどこでどうしてどうなって、今ここにいるのだか。

天高く、とんびが輪を描いている。