六月十八日 曇りのち雨のち晴れのち雷
珍しく、こいびとが泊まっていくという。
枕が変わると眠れないたちだというのに、今日は眠れそうだというのである。
それはそれは、と、笑みを浮かべつつ、獏のことを打ち明けるべきか否か迷う。
獏ごときで驚くような男ではないと思うものの、
こいびと以外の者を家に入れ共棲みしていることが、どこか後ろめたくもあり、
隙を見てさりげなく洗面所に行き、獏を探す。
が、見あたらない。
うがい用のコップの中にも、吊るしたタオルの裏側にも、姿がない。
あたふたと戸棚をあけたり足拭きマットをめくったりしていると、
いつのまにか背後にこいびとが立っていて、ひやっとする。
後ろをとられたところで、後ろ暗いことなどないのだから、何をひやひやしているのだか。
後ろ指さされるようなことなどしていないのに、このうろたえぶりは何なのか。
洗面所の鏡越しに、こいびとが言う。
「なんだか」
なんだか「後ろ」が賑やかですな、と、ひそやかに笑う。
ではお先に。おやすみなさい。
え、まだ八時なのに。
いや、今夜はやけに眠たくて。
入れ違いに、獏が来る。
小さな足で直立歩行しながら、とことこと洗面所に入ってくる。
こいびとはよほど眠いのか、足もとの獏に気づくことなく、
すたすたと寝室に入っていく。
ふぁぁ、と、こいびとのあくびが聞こえ、伝染ったかのように獏が思いきりあくびをする。
赤い小さな舌が、ちらと見えた。
すぅすぅと寝息をたてるこいびとの横で、本を読む。
遠く、雷鳴が聞こえている。