うどん屋で、カシノキさんに会う。
こんな旅先で会うとはなんと奇遇なことか、と驚くが、
カシノキさんは、そんな気がしていました、と事もなく言う。
今朝、夢でお告げがありましたから。
お告げが? と聞きかえすが、カシノキさんは、ふふっと笑うだけである。
どなたのお告げが? と尚も問いかけると、ふいに伏し目がちになり、
あたりを憚るようにして、こそりと呟く。
うどんの神様。
呟いたとたん、バネ仕掛けのようにひゅんっと椅子から立ちあがり、
それではまたいつかどこかでビールなどを呑みませうそのときまでごきげんよう、
と、口早に言いつのり、小走りで店を出て行った。
湯気の立つ釜揚げうどんをすすりながら、うどんの神様について考える。
やはり、色白であるのだろうか。
肌はもちもちとして、からだは長く、たいそう腰が強いのだろうか。
それにしても、さすが巡礼の地である。
ここには八百万(やおよろず)の神様がいるらしい。
もしかすると、獏の神様などもおられるのではあるまいか。
日盛りの、発光するかのような白い光が、
柔肌のうどんのごとく、ひと筋長く射しこんでいる。