buta




七月十八日 曇り、ときどき、内緒

こいびとと、買い物に行く。
傘は1本しかないので、相合い傘である。
しばらくして、傘が濡れていないことに気づき、
やんだのかと思ってたたんで歩きはじめると、やはり肌に雨の気配がする。
目を懲らしても、しずくのようなものは見えないのだが、
髪やうなじや腕や頬が、しっとりと冷たい。
雨はぴちゃぴちゃともしとしととも言わぬまま、少しずつからだを濡らしていくのである。

降っているのか、やんでいるのか、いったいどっちなんだ、え、はっきりしろぃ、
と、空を見あげながら胸の中で毒づくと、こいびとが再び傘をひらいて、そっと言う。
内緒。
え?
内緒で降っているんですよ、この雨は。

そういえば時折、耳の奥がこそばゆいような感じがある。
どうやら雨は、ひそひそと内緒話をするように、こっそり降っているらしい。
得心して、それ以上雨を責めるのはやめにした。

煙ったような一本道を歩きながら、買うべきものを復唱する。
ひそやかな雨に遠慮して、こそこそと小声で言ってみる。
ほたるいかの一夜干し、ニッキ飴、三色そうめん、四川風麻婆茄子の素、
五色豆、六花亭バターサンド、七色唐辛子。
ニッキ飴は、獏の好物である。
ひとつ復唱するたびに、相合い傘の中にかすかに霧がたちこめる。
こいびとの顔が、もやもやと揺らいで見える。

どこからかフルートの音色のような、か細い祭り囃子が聞こえてくる。
市場はまだ遠い。