nagagutu


七月三十日  はれ のち かみなり


午後遅く、盛大な夕立がやってくる。
ざあざあと降る雨の音に、昼寝する獏のいびきも聞こえぬほど。
雷神さまに何かあったのだろうか。
何かよほど、気持がくさくさとするようなことがあったのか。

それにしても、このままではいたるところ洪水、ということになりかねない。
にわかに不安になり、うろたえたとたん、雨はやんだ。
蛇口をきゅっと締めたように、ぴたりとやんだのだった。
呆気にとられ、玄関の引き戸をあけて、空を見あげると、
もう気が済んだとばかりに、悠々と引き上げていく黒雲が見えた。
くさくさとした想いは晴れたのだろうか。
雲の透き間から、薄青い空が、困惑気味に広がっていく。

ふと、家の前に並べた植木の影に見慣れぬものを見たような気がして、
思わず目を懲らす。
と、黒いゴム長靴が一足。
しまった、と思う。
今朝の薄日に油断して、日だまりに干しておいたのである。
長靴はこいびとが置いていったものなので、日頃長靴など履かないあたしは、
その存在をつい失念してしまったのだった。

ゴム草履をつっかけて駆け寄ると、長靴の中にはたっぷりと雨水が溜まっていた。
青空を映すその水たまりの中に、金魚が一匹泳いでいる。
赤くすらりとした金魚である。
はて。いつのまに。
雨と共に降ってきたのだろうか。
雷神さまからの贈り物であろうか。

ふくらはぎに跳ね返った雨水が、ぽつんと冷たい。