獏が、睡蓮鉢をのぞいている。
睡蓮鉢といっても、睡蓮は数年前に枯れ絶えてしまったので、
ただの水を張った鉢である。
いい具合に水藻が繁っているので、そこに先日の金魚を放ったところ、
獏は日がな一日、その縁に腰掛けて、水面をのぞいているのだった。
どうやら、惚れてしまったらしい。
獏の思いを知ってか知らずか、金魚は青い藻のあいだを、すんすんと泳いでいる。
時には長く沈み込み、時には水面にぽかりと口を出したりもする。
獏は、なにもせず、なにも言わず、ただただその様を見つめている。
獏と金魚の恋は、成就しうるのか否か。
明日こいびとが来たら、聞いてみようと思う。
午後遅く、文机に向かうと、
立てかけてあった温度計が、真っ赤な顔をして倒れていた。
あまりの暑さに、へたばってしまったようである。
気の毒に思って冷凍庫に横たえると、今度はかたかた震え出す。
温度計にとっての適温とは、と、しばし思い悩む。
日暮れても、空が蒼い。