『よく利く薬とえらい薬』 宮沢賢治


清夫は汗をポタポタこぼしながら、一生けん命とりました。いつまでたっても籠の底はかくれません。たうとうすっかりつかれてしまって、ぼんやりと立ちながら、一つぶのばらの実を唇くちびるにあてました。

 するとどうでせう。唇がピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったやう、何とも云へずすがすがしい気分になりました。空まではっきり青くなり、草の下の小さな苔こけまではっきり見えるやうに思ひました。

 それに今まで聞えなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、いろいろの木のいろいろな匂にほひまで、実に一一手にとるやうです。おどろいて手にもったその一つぶのばらの実を見ましたら、それは雨の雫しづくのやうにきれいに光ってすきとほってゐるのでした。

 清夫は飛びあがってよろこんで早速それを持って風のやうにおうちへ帰りました。そしてお母さんに上げました。お母さんはこはごはそれを水に入れて飲みましたら今までの病気ももうどこへやら急にからだがピンとなってよろこんで起きあがりました。それからもうすっかりたっしゃになってしまひました。

 

昨今話題の「ローズヒップティー」は、「ノイバラ」の実なのだそう。

漢方の「営実」もまた然り。

バラの実に薬効があること、賢治はきっと知っていたんだろうなぁ。

 

 ☆ブログリニューアル中につき、テスト投稿です。あしからず。